満月の下、静かな夜の岩の上に置かれた一枚のCD。ジャケットに描かれた巨大な桃とトラック——The Allman Brothers Band『Eat a Peach』は、バンドの歴史の中でもとりわけ重い意味を背負った作品である。今回はMOBILE FIDELITY SOUND LAB(MFSL)が手がけた24金蒸着ゴールドCDと、後年リリースされたハイブリッドSACD、両方の音源を軸に、このアルバムの成り立ちとオーディオファイル的価値を掘り下げていく。

デュアン・オールマンの死—1971年10月29日
本作を語る上で避けて通れないのが、バンドの創設者でありスライドギターの革新者、デュアン・オールマンの死だ。1971年10月29日、彼はジョージア州メイコンの市街地をハーレーダビッドソンで走行中、クレーンを積んだ大型トラックが交差点で急停止したことで衝突を回避できず接触。オートバイごと跳ね上げられ、目立った外傷こそ少なかったものの、その日のうちに手術中に息を引き取った。享年24歳。バンドは『At Fillmore East』の成功でキャリアの頂点に差し掛かったばかりのタイミングでの悲劇だった。
奇しくもその約1年後、ベーシストのベリー・オークリーもまた、デュアンの事故現場からわずか数ブロック離れた場所でオートバイ事故により命を落としている。
アルバム制作の経緯
『Eat a Peach』はトム・ダウドのプロデュースにより1972年2月12日にリリースされた、バンドにとって3作目のスタジオアルバム。制作はデュアンの生前から進められていたが、彼の死によって作品の性格は大きく変わることになった。収録内容は、デュアンが参加したスタジオ録音、彼の死後にバンドが完成させた楽曲、そして1971年の伝説的なフィルモア・イースト公演からのライブ音源という三層構造になっている。特に34分に及ぶ大作「Mountain Jam」は、ドノヴァンの「There Is a Mountain」を下敷きにした即興演奏で、LP時代にはアルバムの2面分を使って収録された。追悼盤でありながら、バンドが前を向いて再出発を宣言する作品でもあった。
セールスと評価
『Eat a Peach』はリリース直後からヒットし、ビルボード・トップ200アルバムチャートで自己最高となる4位を記録。その後RIAAからプラチナ認定(米国内100万枚以上のセールス)を受けており、バンドのカタログの中でも屈指の売上を誇る一枚となった。2020年にはグラミー殿堂入りも果たしている。ジャケットアートも高く評価されており、ローリングストーン誌の「史上最も偉大なアルバムジャケット100選」にも選出された。
曲構成
| 曲名 | 収録時間 | 備考 | |
|---|---|---|---|
| 1 | Ain’t Wastin’ Time No More | 3:42 | スタジオ録音、デュアン死後に完成 |
| 2 | Les Brers in A Minor | 9:06 | スタジオ録音、デュアン死後に完成 |
| 3 | Melissa | 3:57 | スタジオ録音、デュアン死後に完成 |
| 4 | Mountain Jam | 33:40 | フィルモア・イースト、ライブ(デュアン参加/前半・後半に分割収録) |
| 5 | One Way Out | 4:57 | フィルモア・イースト、ライブ(デュアン参加) |
| 6 | Trouble No More | 3:46 | フィルモア・イースト、ライブ(デュアン参加) |
| 7 | Stand Back | 3:27 | スタジオ録音(デュアン生前に録音) |
| 8 | Blue Sky | 5:12 | スタジオ録音(デュアン生前に録音) |
| 9 | Little Martha | 2:07 | スタジオ録音(デュアン生前に録音、彼の遺作インスト) |
演奏メンバーの観点で整理すると、収録9曲は次の三つのグループに分かれる。
- デュアンが参加していない曲:「Ain’t Wastin’ Time No More」「Les Brers in A Minor」「Melissa」の冒頭3曲。いずれもデュアンの死後、ディッキー・ベッツを中心に残されたメンバーが完成させたスタジオ録音である。
- デュアンが参加している曲(ライブ):「Mountain Jam」「One Way Out」「Trouble No More」の3曲。1971年のフィルモア・イースト公演からのライブ音源で、デュアンが存命中に演奏したテイクがそのまま使われている。
- デュアンが参加している曲(スタジオ):「Stand Back」「Blue Sky」「Little Martha」の3曲。デュアンの生前にスタジオで録音されたもので、特に「Little Martha」は彼が単独で作曲した唯一のインストゥルメンタルであり、事実上の遺作となった。
つまりアルバム全体としては、冒頭3曲のみがデュアン不在で制作され、残る6曲(ライブ3曲・スタジオ3曲)にはすべてデュアン自身の演奏が収められている。この配列自体が、追悼と再生の物語を音の面から支える構成になっている。
MFSLゴールドCD(UDCD 513)
日本プレスのUltradisc II、24金蒸着盤としてリリースされたこのゴールドCDは、カタログ番号UDCD 513。国内外のリスナーからは、通常盤に見られがちな圧縮感や高域の刺さりが抑えられ、より開放的で空間表現に優れたサウンドという評価が根強い。「One Way Out」でのグレッグ・オールマンのボーカルの抜け、ディッキー・ベッツのソロの余韻など、細部のニュアンスが埋もれずに立ち上がってくる点が支持されている。オリジナルのCapricorn盤LPや他の再発CDと聴き比べたリスナーからも、スタジオ曲・ライブ曲の双方で完成度の高さを指摘する声が多い。
Editor’s Note
国内外で評価の高いCDで、プレミアム価格がついている。サブスクの時代でもマニアもしくはコレクターの間では人気が高い。音質に関していうと、The Allman Brothers Bandのライブ録音は公式盤であっても音が籠っている。
ここでのリマスターは、音圧は低めで音の線は細い。しかし奥行きがあるので他のCDでは聴けない雰囲気になっている。繊細な音質に仕上がっているということだ。
MFSLハイブリッドSACD(UDSACD 2102)
一方、後年リリースされたハイブリッドSACD(UDSACD 2102)は、オリジナルマスターテープからのリマスタリングにより、ライブ楽曲のダイナミクスとスペース感、スタジオ楽曲の質感をより高い解像度で再現している。特に34分の大曲「Mountain Jam」における演奏の一体感や、ブルース色の濃い「Trouble No More」でのバンドのグルーヴ感は、SACD層の情報量の恩恵を強く感じさせる仕上がりだ。同時期にリリースされたMFSLの他のオールマン・ブラザーズ諸作(『Brothers and Sisters』など)と比較評価されることも多く、本作は特に評価の高い一枚として語られている。
Editor’s Note
音圧がゴールドCDより高くパンチの効いた音質になっている。中低域の押し出しがあり音も厚い。『At Fillmore East』ほどの熱量はないが、ファンなら聴いて損はないだろう。
まとめ
ゴールドCDとSACD、フォーマットこそ異なるが、どちらもMFSLらしい「圧縮感を排し、空間と質感を優先する」マスタリング思想が貫かれている。デュアン・オールマンというギタリストの喪失と、それでも前進しようとしたバンドの意志が刻まれた『Eat a Peach』というアルバムの重みを、24金という物理メディアとSACDという高解像度フォーマット、それぞれの手触りで追体験できるのは、オーディオファイルにとって贅沢な体験と言えるだろう。




