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- 2026年1月17日
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TDR SlickEQ 無料版と SlickEQ GE の違いを徹底比較|音質・機能・使いどころを解説
子供の頃オーディオのエンジニアを目指しながらも、色盲のため断……

JRiver Media Center 36とHQPlayer 6 Desktopを組み合わせる――このいわゆる「二段構え」の再生環境を試すたびに、いつも気になっていたことがある。HQPlayerというソフトを作っているSignalystとは、一体どういう会社なのか。なぜここまで頑なにDSDアップサンプリングにこだわり続けるのか。そして、あの独特な挙動(良くも悪くも「クセ」の強さ)は、どんな開発体制から生まれているのか。今回は導入・設定の実践編に入る前に、まずSignalystという存在そのものを掘り下げてみたい。
HQPlayerを開発・販売するフィンランドの会社Signalystは、Jussi Laako(ユッシ・ラーコ)という一人の技術者が興した会社である。会社概要を見ても、組織図らしきものはほぼ存在しない。公式サイトの問い合わせ先は「技術的な連絡先:Jussi Laako」「ライセンスキー・購入関連:Aapo Metsälä」の二名のみ。これがDACメーカーやDSPソフトウェア企業の”公式窓口”だと考えると、いかにこの会社が異質かがわかる。
Laako氏のバックグラウンドを遡ると、興味深い経歴に行き着く。彼が長年手がけていたプロジェクトのひとつに「HydroAcoustic Signal Analysis System(HASAS)」という、水中音響信号解析用のソフトウェアがある。1999年から2008年にかけて開発されていたオープンソースのプロジェクトで、要するにソナー(水中音響)分野の信号処理ツールだ。DAC設計に30年、HQPlayerの開発に25年以上を費やしてきたという経歴と、このソナー由来の信号解析システムを重ね合わせると、Signalystの技術基盤が「オーディオ専業」ではなく、水中音響・レーダーといった計測分野の信号処理から派生していることが見えてくる。
余談:筆者自身もかつてソナーメーカーでの実務経験がある身として、この経歴には妙な親近感を覚える。水中音響の世界は、ノイズフロアの中からいかに微弱な信号を拾い上げるかという、S/N比との果てしない戦いだ。HQPlayerのフィルタ設計や量子化ノイズの整形(ノイズシェーピング)へのこだわりの深さは、この畑で鍛えられた感覚が土台になっているのではないかと勘繰りたくなる。
Laako氏は現在もX(旧Twitter)アカウント@Signalystで自らアップデート情報を発信し続けている。フォロワーはわずか1000人に満たない小規模なアカウントだが、投稿内容は「HQPlayer Desktop 6.0.2:UPnP互換性の不具合修正、macOS M5Pro/Max向けEコア割り当て設定を追加」といった、開発者本人にしか書けない粒度の技術的な変更履歴そのものだ。ユーザーサポートもフォーラムでLaako氏本人が直接対応するスタイルで、海外のレビューサイトでは「A+のサービス」と評されるほど手厚い。裏を返せば、この会社の品質もスピードも、すべてが一人の技術者の可処分時間に依存しているということでもある。「全売上はfinal、返金不可」という潔い(あるいは容赦のない)販売ポリシーも、この規模感を象徴している。
HQPlayerを使い込んだことのあるユーザーなら誰しも一度は感じるはずだ―このソフトウェアには、大手メーカー製品にはない「野心的すぎる」設定項目の多さがある。71種類ものアップサンプリングアルゴリズム、36種類のデルタシグマ変調器、64/80/128bit浮動小数点演算、CUDAによるGPUオフロード。これほどの選択肢を用意しながら、UIは驚くほど無骨で、初見のユーザーを突き放すような設計思想が貫かれている。
これは「使いやすさ」よりも「原理的な正しさ」を優先する、研究者気質の産物だと捉えるとしっくりくる。組織としての合議やマーケティング部門のフィルターを経ていない、開発者個人の判断がそのままソフトウェアの挙動に直結している。良く言えば妥協のない設計、悪く言えば独りよがりの実装―HQPlayerというソフトの魅力と扱いにくさは、表裏一体でこの体制に由来していると言っていい。
Signalystの製品ページに繰り返し登場するフレーズが「harnessing power of modern DSP(現代のDSP性能を最大限に活用する)」という一文だ。この背景にある考え方はシンプルで、次のようなロジックになっている。
市販DACの多くはコスト制約から、内蔵のオーバーサンプリング・デルタシグマ変調の処理能力が限定的である。
一方、現代のPCは膨大な処理能力を持て余している。
ならば、DACチップ内部で行われている処理(オーバーサンプリングとデルタシグマ変調)を、PC側のソフトウェアで肩代わりし、より高精度な演算に置き換えてしまえばよい。
その結果、DAC本来の「詰めの甘いデジタル/アナログフィルター」に起因するアーティファクトを、可聴帯域の外側へ押しやることができる。
つまりHQPlayerの本質は「良い音に変換する魔法のプラグイン」ではなく、DACチップの内部処理をソフトウェアで代替・拡張するという、かなり工学的に割り切った思想の実装なのである。PCMをそのまま高いサンプルレートへアップサンプリングする道と、DSD(1bitのデルタシグマ変調ストリーム)へ変換する道の両方が用意されているが、Signalystが特に力を入れているのはDSD/SDM(Sigma-Delta Modulation)側の変調器の作り込みだ。最大24.576MHzのSDM出力(DSD512の16倍相当の領域)まで対応するなど、正直なところ現行のDAC市場のほとんどが追いついていないスペックまで踏み込んでいる。
興味深いのは、Laako氏自身が2025年のLinkwitz Parlor(ミュンヘン)のイベントで、DSD/SDM形式のまま後処理(ポストプロセッシング)を行い、PCMへ変換せずに完結させる手法について講演していることだ。これは「DSDに変換したらそこで話は終わり」ではなく、DSD/SDM領域そのものの中でさらに信号処理を突き詰めようとする、Signalystらしい執念の表れと見ていいだろう。多くの競合ソフトが「PCM高音質再生+簡易DSD対応」で満足するところを、Signalystは変調器の設計そのものを競争領域として扱っている。
ポイント:HQPlayerのDSDアップサンプリングは、「元の音を持ち上げて豪華にする」ためではなく、「DACのアナログ出力段に渡す信号の量子化ノイズをどこまで可聴帯域外に押しやれるか」という、あくまで技術的な最適化問題として設計されている。この立て付けを理解しておくと、後述する設定項目(フィルタ・モジュレータの選択)の意味も掴みやすくなる。
ここからは実践編。筆者の環境(JRiver Media Center 36、EF400 R-2R DAC/アンプ)を前提に、HQPlayer 6 Desktopを導入し、JRiverと連携させるまでの手順を整理する。要するに、操作はJRiverを利用してエンジンだけHQPlayerを利用するということだ。これまでROON+HQPlayerでやってきたことをJRiverでもやれるようになったのだ。但し、これができるのはHQPlayer 6 DesktopでHQPlayer 5 Desktopでは不可能だ。
ダウンロードとインストール
Signalyst公式サイト(signalyst.com)の「Products-Downloads」ページからHQPlayer Desktopのインストーラーを取得する。トライアル版は起動30分ごとに再生が停止する制限付きだが、設定の検証には十分使える。HQPlayer Desktopは「Server(実際に再生・処理を行う本体)」と「Client(ライブラリ閲覧・操作用の別ウィンドウ)」の二つのコンポーネントで構成されており、両方が同一インストーラーに含まれる。
画面右赤枠の【Allow control from network】を押してオンにします。

【File】-【Settings】-【Input device settings】は下記の通り設定してください。私の場合、PCMもDSFもDoPで受け渡しなので、SDMpackはDoPを選択。

【Output device settings】

①Backend 接続方法なので、私の場合WASAPIによる排他的接続でWASAPIを選択
②Device DACを選択します。
③Defalt mode 最終的にDACへOUTPUTするモード。DSDアップサンプリングなのでDSDを選択
④SDM pack DSDに変換したものをDACへどう送るか。WASAPIの場合、DoP一択
※Volume maxはクリッピング防止のため-6.0dBにしました。
ここではPCMデータの処理とDSFからPCMへの変換処理を設定します。

左側がPCMデータの処理、右側がDSFからPCMへの変換処理の設定になります。私の場合、DSFはビットストリームなのでPCMへ変換しませんので右は関係ありません。
私のDACはR2Rなので、それに合ったフィルターをAIにいくつか選択させて、試聴によって画像で示すフィルターに決定しました。
Dither LNS15 これは滑らかな階調表現や信号の再現を行うために、あえて微小なノイズ(またはパターン)を付加する技術です。
Bits 15 AIに自分が使用しているDACの実測リニアリティビット数を聞いて入力してください。実際の回路で歪みなく正確に直線的(リニア)に信号を再現・変換できる実質的な精度(ビット数)」を表す指標です。ここに正確に数値を入力することで歪みを調整してくれます。
ここではPCMデータのアップサンプリングの処理とDSFの処理について設定します。

①OversamplingについてはPCMのフィルターと同様に設定しています。
②Modulator ASDM7 DSDにアップサンプリングするときの処理方法
③Bit rate DSD64にアップサンプリングするのでこれを選択
④IntegratorとConversionはDirectSDMがオフ(画像の状態)の時に作動します。実際に試聴して聴きやすいものを選択。但し、DirectSDMがオン(ビットストリーム)、青色の部分を押すとレ点が入ると無効になります。
※Advancedは未設定
JRiver単体でファイルを直接HQPlayerの実行ファイルに渡す旧来のスクリプト連携(PowerShellスクリプトによるファイル関連付け方式)も存在するが、これは2018年前後に個人有志が作った非公式な仕組みで、現在では前提となるファイル形式の制約が煩雑になりやすい。より現実的なのは、JRiverのMedia Network機能を使い、HQPlayer DesktopをUPnP/DLNAレンダラーとして認識させる方法だ。
JRiver側:Media Networkの有効化

「Tools」→「Options」→「Media Network」を開き、Media Networkをオンにする。次へのボタンが何回か出ますが押し続けて完了させてください。
数十秒待つと、フロント画面の「現在の再生リスト」パネルの下部にネットワーク上のレンダラー一覧が表示されるようになる。
HQPlayerをゾーンとして選択

HQPlayer Desktopが同一ネットワーク上でUPnP/DLNA互換のレンダラーとして稼働していれば、JRiverの「Playing Now」のゾーン一覧にHQPlayer(もしくはそのホスト名)が表示される。これを選択した状態で再生すると、JRiverはファイルの実体(またはストリームURL)をHQPlayerへ受け渡し、以降のデコード・アップサンプリング・DAC出力はすべてHQPlayer側で完結する。
重要な注意点:この方式でHQPlayerへ再生を渡すと、JRiver側のDSP Studioで組んだVST3チェーン(筆者の環境ではTDR VOS SlickEQ GE、TDR Kotelnikov GE、UA Ampex ATR-102)は適用されない。これはJRiverのローカル音声エンジンをバイパスしてHQPlayerへ再生権限が渡るため、当然といえば当然の挙動だが、見落としやすい落とし穴だ。つまり「JRiverの自慢のDSPチェーンを活かした音」と「HQPlayerのアップサンプリングを活かした音」は、この構成では二者択一になる。両方を同時に得たい場合は、HQPlayer側の畳み込み(コンボリューション)エンジンで同等の処理を組み直すか、あるいは用途に応じて出力先を都度切り替えるしかない。
設定が一通り終わったら、実際に聴き比べてみるのが一番早い。筆者は今井美樹「Ivory – Goodbye Yesterday」のギターパートを試聴用リファレンスにしている。JRiverローカル再生+Ampex ATR-102プラグイン(耳が疲れず、ギターに独特の「うねり」が乗る)と、JRiver→HQPlayer経由でのDSD64アップサンプリング再生とを切り替えながら、ギターの分離感・空気感がどう変わるかをじっくり聴き比べてほしい。どちらが正解ということではなく、「テープエミュレーションによる質感の演出」と「デジタル処理の精度を突き詰めた透明感」という、まったく異なる二つのアプローチを聴き分ける作業になるはずだ。
| 再生経路 | 特徴 | 向いている用途 |
|---|---|---|
| JRiverローカル再生(VST3チェーン適用) | SlickEQ/Kotelnikov/Ampexによる質感の作り込みが効く。テープ的な倍音とうねりが乗る | アナログ的な質感を重視したい楽曲・気分のとき |
| JRiver→HQPlayer(DSDアップサンプリング) | DAC側の変換処理をソフトウェアが肩代わり。理論上はノイズフロアの整形が精緻になる | DACの素の実力を測りたいとき、S/N・分離感を追い込みたいとき |
Signalystという会社の成り立ちを知ってから改めてHQPlayerに触れると、あの取っつきにくいUIも、容赦のない返金不可ポリシーも、すべて「一人の技術者が、自分の信じる正しさを愚直に実装し続けている」という文脈の中で見え方が変わってくる。次回は、この構成を土台にHQPlayerとJRiverの音の差がどこまで縮まっているのか、より踏み込んだ比較検証をお届けしたい。
