Benjamin LacknerとECMという磁場

きっかけはサックスの名前だった。「Mark Turnerが参加している」という一文を見て手に取った。だが何度か聴くうちに、耳が引き寄せられているのはサックスではなく、その背後にあるピアノだと気づいた。

Benjamin Lacknerのピアノは、主張しない。けれど、消えない。曲が終わったあと、残響として頭の中に留まるのは、管楽器が奏でたメロディではなく、ピアノの音の粒と、その間にある静寂だった。

Benjamin Lackner — 生い立ちと音楽的背景

ECMレーベルで最初に買ったものはサックスだったので、Benjamin Lacknerもそうだという勘違いから始まった。すぐにピアニストだと分かり経歴が知りたくて調べてみた。一聴するとピアノもあるがサックスのようなトランペットだったりテナー・サックスの響きもピアノと同位置にいる。

生い立ち

ベルリンでアメリカ人の父とドイツ人の母のもとに生まれ、13歳のときカリフォルニアへ移住。 サンタバーバラで多感な青春時代を過ごし、両親はともに演劇の世界で活躍するアーティストだった。 現在は「ベニー」と呼ばれていた頃を経て、正式に「Benjamin」として活動し、ベルリンを拠点としている。

音楽教育

カリフォルニア芸術大学(CalArts)でジャズのレジェンド、チャーリー・ヘイデンとデヴィッド・ロイトシュタインのもとでBFAを取得。その後1997〜98年にかけて、ピアニストのブラッド・メルドーに師事し、個人レッスンを受けた。

このメルドーとの関係は非常に重要で、Lacknerはメルドーを「メンター」と呼んでいる。

キャリアの軌跡

North Sea Jazz Festival、モントルー、モンテレーなど世界の主要ジャズフェスティバルに出演。ビリー・ヒギンズ(故人)、マーク・リボー、フィアロン・アクラフといったミュージシャンとも共演してきた。

2002年にニューヨークでトリオを結成し、Jerome Regard(ベース)、Matthieu Chazarenc(ドラムス)との編成で長年にわたってワールドツアーを続けた。

ECMデビューとその後

トリオでの複数のアルバムを経て、2022年にECMレコーズから Last Decade でデビュー。Mathias Eick(トランペット)、Manu Katché(ドラムス)、Jérôme Regard(ベース)が参加したこの作品は、Stereophile誌に「2022年のECM作品の中でも最も美しい一枚」と評された。

続く最新作 Spindrift(2024年録音)では、Mark Turner(サックス)、Linda May Han Oh(ベース)らを迎えた新クインテット編成で、南フランスでレコーディング。メロディと集団的化学反応を最優先にした作風が特徴となっている。

音楽的な特徴

美しいタッチと洗練されたグループ・インタープレイへの意識が際立っており、スイス週刊誌 Weltwoche の批評家はその音楽を「ほぼ催眠的なメロディの渦の中で、独奏的な『華やかさ』や派手な技巧を排した、高度に統合されたサウンド」と評した。

Last Decade

プロローグ

ECMレーベルの世界観に魅了されてしまい、ECMレーベルでリリースされているアルバムの中から自分にあったアルバムを選んだ結果、Benjamin Lacknerに辿り着いたというのが本音だ。その過程の中で日本人もリリースしていることに気づく。海外レーベルで活躍する日本人なんて珍しい。

きっとオープンなレーベルなのだろう。

ジャケットの印象

『Last Decade』過去10年間という意味だが、ジャケットも何故か重い。

音の特徴

ECMレーベルのアルバムに共通しているのは、とにかくピアノの響きが湿度感、透明感、寒さを感じる音色が特徴だ。そしてこのアルバムでのトランペットがChet Bakerの『Plays the Best of Lerner & Loewe』にかなり近い。

何かのノイズかと間違えるほどのベースの弦のビリ付きがあった。

Hung Up on That Ghost

軽くバックコーラスを入れていて効果音になっている。スタジオの残響音が他のスタジオと違うので相当凝った設計だと思う。

Last Decade

アルバムタイトルなのに5曲目とはどういう意図からなのか。トランペットも素晴らしいが、やはりBenjamin Lacknerのピアノが冴えている。私がイメージするノルウェイやフィンランド、デンマークの氷上を感じるトーンだ。

雰囲気・世界観

雪と吹雪の中で海を見ながら一人で立ち尽くしている、そんな感じにさせるアルバム。

おすすめの聴き方・シーン

夜眠れない時や朝到着予定よりも早く着いた時に仮眠時に車の中で聴いて欲しい。

総評

どの楽器の演奏が主演なのかが分からないくらいの演奏だ。曲を聴いているのか或いは演奏を聴いているのかと言われれば、おそらく曲の雰囲気を聴いているのだろう。

キャッチコピー

『PRESTIGEは熱いジャズだったが、ECMは氷のように冷たい』

AllMusic評価

0
評価無し
AllMusicスコア評  価
Masterpiece
Excellent
Strong
Good
Average
Mixed
Poor
Very Poor
Awful

エピローグ

これだけの虚無感でいっぱいのアルバムをリリースしながら、次作はどんな構成で来るのか興味が湧いたのでセカンド・アルバムも購入した。ECMレーベルの音楽はアーティストが変わっても音楽の思想は変わらないので、もしかしたら飽きられてしまうかもしれない。

Spindrift

プロローグ

Benjamin Lacknerにとっての2枚目のアルバム。2026年5月時点で2枚しかリリースしていない。オープニングの曲にトランペットがなかったので、今回はトランペットがなくテナー・サックスだけになったのかと思った。しかし2曲目から前作のトランぺッターが演奏していた。

テナーサックスはトランペットと違って芯のある音なので存在感が前に出ている。ピアノの音とのバランスが上手くとれるかが聴きどころ。

ジャケットの印象

下地に薄いグリーン色で塗ってから2色を使って重ね塗りをしたジャケット。アート感があって素敵だ。

音の特徴

トランペットのフワッとした感じがテナーサックスからは聴こえてこないので、前作と比較してどんな印象になるのか。

Mosquito Flats

トランペットとマークターナーのテナーサックスが絶妙に重なる。ピアノの音がかき消されることはなく不思議な飽和感が広がる。この曲以降曲が変わっているという感覚が無くなってしまった。トランペットとテナーサックスが曲を大きくリードしていてピアノが主体ではないという印象を持つ。

Chambary

トランペットとテナーサックスの共演が最初から最後まで続く傑作。このアルバムを前作の延長線ではないことがこの構成で分かる。

雰囲気・世界観

前作と違って、孤独感や寒さを感じさせない曲調だ。夕方に石畳の上を何人かで歩いているような音楽だ。

おすすめの聴き方・シーン

食事やお酒を飲みながら聴けたら最高でしょう。暗い気分になることはなく気持ちが整う音楽だからです。

総評

ECM特有の寒々とした音楽かと思いきやトランペットとテナーサックスが曲調を変えてしまった。雪解けや逆に冬に突入する直前の音楽なのかもしれない。新しいジャズを探している人には是非聴いて欲しい作品だ。

キャッチコピー

『心を整えるジャズの決定盤』

AllMusic評価

0
評価無し

エピローグ

ECMレーベルには、マイルスやエバンス、コルトレーンとは全く異なるアーティストいやレーベルの意向が働くので、もう聴くジャズがないと思ったら一聴することをおススメします。新鮮な発見と驚きが待っています。


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