Mobile Fidelity Sound Lab(MFSL)のOriginal Master Recording盤で、ジョン・レノンの初期ソロ3作を聴き比べました。
- 平和への祈り(Live Peace in Toronto 1969)
- ジョンの魂(John Lennon/Plastic Ono Band)
- イマジン(Imagine)
結論から書くと、イマジンは想像以上に音場の広いリマスターでした。平和への祈りは、ギターの分離感とギターの艶が3枚の中でも抜きんでています。
この記事では音の印象に加えて、3作のプロデューサーと参加メンバー、そしてプロデューサーという仕事の役割まで整理します。
3作の位置づけ|発表順に並べる
3作は録音の性格がまったく違います。発表順に並べると流れが見えます。
| 作品 | 発売 | 性格 | プロデューサー |
|---|---|---|---|
| 平和への祈り(Live Peace in Toronto 1969) | 1969年12月12日 | ライブ盤(1969年9月13日録音) | John Lennon、Yoko Ono |
| ジョンの魂(John Lennon/Plastic Ono Band) | 1970年12月11日 | 最小編成のスタジオ盤 | John Lennon、Yoko Ono、Phil Spector |
| イマジン(Imagine) | 1971年 | ストリングスも入った洗練された盤 | John Lennon、Yoko Ono、Phil Spector |
ライブ盤が先に出ていて、その後にスタジオでの2作が続きます。ビートルズ解散前後のレノンが、ソロとしてどう音を組み立てていったかを順に追えます。
3作を貫く人物|Klaus Voormann
3作すべてに参加しているのがベーシストのKlaus Voormannです。ハンブルク時代からのレノンの旧友で、Revolverのジャケットを描いた人物としても知られています。
Alan Whiteも平和への祈りとイマジンの両方でドラムを叩いており、レノンのソロ初期を支えた顔ぶれがアルバムをまたいでつながっているのがわかります。
平和への祈り(Live Peace in Toronto 1969)

このアルバムの中で、ヨーコに関する曲はリッピングの際に削除しました。ジョンにとって大切な人でも私にとっては邪魔な人です。
参加メンバー
- John Lennon:ボーカル、エレクトリック・ギター
- Yoko Ono:ボーカル
- Eric Clapton:リード・ギター、バッキング・ボーカル
- Klaus Voormann:ベース
- Alan White:ドラム(のちにYesへ加入)
- Kim Fowley:曲の紹介(スポークン・イントロ)
荒々しくも良いロックライブになった経緯
1969年9月13日、トロントのVarsity Stadiumで開かれたToronto Rock and Roll Revivalでの演奏です。レノンが誘われたのは前日で、急きょバンドを組むことになりました。George Harrisonには断られ、Clapton、Voormann、Alan Whiteが集まります。
リハーサルは、トロントへ向かう飛行機の中でした。エレキギターをアンプなしで鳴らす状態で、曲を確認する程度だったとレノンは語っています。つまり、ほぼ初見に近いメンバーによるライブです。
演奏された曲は次のとおりです。
- Blue Suede Shoes
- Money (That’s What I Want)
- Dizzy Miss Lizzy
- Yer Blues
- Cold Turkey
- Give Peace A Chance
その後にYokoのDon’t Worry Kyoko (Mummy’s Only Looking For Her Hand In The Snow)とJohn, John (Let’s Hope For Peace)が続きます。
レノンは9月25日にアビイ・ロードでこのライブをミックスしました。ステレオのマスターを作るのに、ほんの数時間しかかけていません。荒削りな勢いは、録音の成り立ちそのものから来ているのだと思います。
音質|ギターの分離感と艶
ここがこのMFSL盤の聴きどころです。ギターの分離感が良く、ギターの艶も3枚の中で抜きんでています。荒々しい演奏でありながら、音が濁らずに聴こえます。
レコード会社が「売れない」と判断した問題作
このアルバムには、有名な逸話があります。以下はレノン自身が1980年に語った内容です。
- Capitolは当初、この作品を発売したがらなかった。片面でYokoが叫び、もう片面にライブ演奏が入った内容を「ゴミ」と評した。
- マネージャーのAllen Kleinは、これをビートルズ名義ではなくJohn & Yokoの Plastic Ono 作品として扱う契約にした。ビートルズの印税率は1963年の契約で低く固定されていたため、高い印税率を狙ったものだった。
- Capitolは「どうせ売れない」と考え、その条件をあっさり認めた。
- ところがアルバムは売れ、全米10位、ゴールド認定となった。
- 4年後に印税を受け取りに行くと、Capitolはこの作品を「ビートルズのレコード」として扱っていた。
つまり、売れないと見込まれて通った好条件が、売れた後に覆された形です。一度は「寄せ集め」と見なされた作品が、ビートルズ並みの低い印税率で処理されたという、皮肉な結末でした。
ジョンの魂(John Lennon/Plastic Ono Band)

ジャケットが秀逸で、あの大きな木の下での撮影は明らかにジョンの意向でしょう。
参加メンバー
- John Lennon:ボーカル、ギター、ピアノ、オルガン
- Klaus Voormann:ベース
- Ringo Starr:ドラム
- Billy Preston:ピアノ(God)
- Phil Spector:ピアノ(Love)
- Yoko Ono:クレジット上は「wind」
核になるのは、Lennon、Voormann、Ringoの3人です。これだけの最小編成だからこそ、一音ずつの輪郭がむき出しになります。
収録曲はMother、Hold On、I Found Out、Working Class Hero、Isolation、Remember、Love、Well Well Well、Look At Me、God、My Mummy’s Deadです。
MFSLのリマスターは、レコードに近い雰囲気に主眼が置かれ、中音域を上げて高音域のロールオフを上手くやっています。『Mother』のイントロの除夜の鐘のような音は、何度聴いても吐き気がするような思いになります。『Isolation』『Love』はシンプルでありながらも心に刺さる音楽です。このアルバムを聴いていると、ジョンは孤独に悩まされてきたんだと感じます。たとえヨーコと出会って新しい人生を歩んでも。
プロデューサーの名義と実際の関与
プロデューサーはLennon、Ono、Spectorの3名義です。ただし、Spectorはプロデューサーとして予定されていたものの、セッションの約半分にはスタジオに姿を見せなかったと伝えられています。
名義上のプロデューサーと、現場での実際の関わりは別物だということがわかります。
イマジン(Imagine)

ジョン・レノンがアルバム『イマジン』(1971年)収録の「How Do You Sleep?」を作ったのは、ポール・マッカートニーが1971年5月に発表したアルバム『Ram』の中の歌詞やアートワークで、自分やオノ・ヨーコを当て擦ってきたと感じたためです。
ポールがジョンに向けて発したとされる具体的な内容(歌詞・デザイン)は以下の通りです。
ポールが『Ram』で言ったこと・表現したこと
- 「Too Many People」の歌詞
- 内容: “Too many people preaching practices”(多くの人々がお説教ばかり垂れている)/ “That was your first mistake / You took your lucky break and broke it in two”(それが最初の間違いさ、お前は幸運を自ら二つに叩き割った)
- ジョンの受け止め: ジョンとヨーコが行っていた平和運動(ベッド・インなど)への批判であり、「ビートルズを解散させたのはジョンだ」と責められていると感じました(※ポールも後年、この曲の歌詞はジョンを意識したものだったと認めています)。
- 「3 Legs」の歌詞
- 内容: “My dog he got three legs / But he can’t run“(犬は自由に飛べるはずなのに、走れず、歩けず、飛べもしない)
- ジョンの受け止め: 「3本足の犬」という表現が、ビートルズ解散後に残された3人のビートルズメンバー(ジョン、ジョージ、リンゴ)を揶揄していると受け取られました。
- 「Dear Boy」の歌詞
- 内容: 本来は妻リンダの元夫に向けた曲でしたが、ジョンは自分に対する当て擦りだと勘違いして腹を立てました。
- ジャケットのアートワーク
- アルバムの裏面に「交尾する2匹のカブトムシ(Beetles)」の写真を載せており、ジョンはこれを「ポールから自分たちへの嫌がらせのメッセージ」と捉えました。
参加メンバー
ジョンの魂から一転して、豪華な顔ぶれです。
- John Lennon:ボーカル、ギター、ピアノ、ハーモニカ
- George Harrison:ギター、ドブロ
- Nicky Hopkins:ピアノ、エレクトリック・ピアノ
- John Tout:ピアノ
- Klaus Voormann:ベース
- Alan White:ドラム、ヴィブラフォン
- Jim Keltner、Jim Gordon:ドラム
- King Curtis:サックス
- John Barham:ハルモニウム、ヴィブラフォン
- Joey Molland、Tom Evans(バッドフィンガー)ほか:アコースティック・ギター
- Torrie Zito:ストリングスのアレンジと指揮(ニューヨークの弦楽奏者陣が参加)
レノンは、自宅スタジオに音楽仲間を集め、コード進行と構想を伝えながら録音を進めました。録音は、レノン、Yoko、Spectorの誰かが「これでいい」と判断した時点で終わる方式だったそうです。
音質|想像以上に広い音場
このMFSL盤のイマジンは、想像以上に音場が広く感じられるリマスターでした。
レノン自身はこのアルバムを「Plastic Ono with chocolate coating」と呼びました。ジョンの魂の内容に、聴きやすい口当たりを足したという意味です。ストリングスや大勢のミュージシャンを重ねた制作の厚みが、広い音場として感じられます。
『ジョンの魂』と違って攻撃的なアルバムになりました。『Imagine』は幻想的なピアノで始まり、『Jealous Guy』では嫉妬深い自分への懺悔にも聴こえます。『Gimme Some Truth』ではギターのフレーズか何か性急な印象を与え、そこにジョージのスライドギターが切り込んでくる曲です。こんな曲は後年制作していません。そして『Oh My Love』『How?』と名曲揃いです。
プロデューサーの役割とは
プロデューサーという言葉は、ミュージシャンや曲を書く人と混同されがちです。実際の役割は、作品全体の責任者です。主なものは次のとおりです。
- 作品の方向性を決める
- ミュージシャンやエンジニアを選ぶ
- 演奏やアレンジに意見を出す
- どのテイクを採用するかを判断する
- 予算とスケジュールを管理する
- ミックスと仕上がりの最終判断をする
3作を見比べると、同じ「プロデューサー」でも関わり方がまったく違います。
平和への祈りは、LennonとYokoが制作の主体でした。録音も半ば偶発的で、ミックスはLennonが短時間で仕上げています。「作品を作る人」と「作品を仕上げる人」が同一です。
ジョンの魂は、Spectorがプロデューサーとして名を連ねています。ただ、実際の現場にはLennon自身の強い意志が通っていました。Spectorは「Wall of Sound」と呼ばれる厚い音作りで有名ですが、このアルバムはギター、ベース、ドラム、ピアノ中心の最小編成です。プロデューサーの役割が、音を足すことだけではないとわかります。
イマジンでは、Spectorの関与が前作より深まりました。ストリングスの導入や、聴きやすさに向けた整え方に、プロデューサーの色が出ています。
この3作は、プロデューサーが「何をするか」だけでなく「何をしないか」も作品を形づくることを教えてくれます。
まとめ
- イマジンは、MFSL盤で聴くと音場の広さが想像以上
- 平和への祈りは、ギターの分離感と艶が抜きんでている
- 3作に共通して参加するのはKlaus Voormann。Alan Whiteは平和への祈りとイマジンに参加
- プロデューサーの役割は、音を足すことだけではなく、削ることでもある
- 平和への祈りには、売れないと判断されたのに売れた結果、印税率で皮肉な扱いを受けた逸話がある
ライブ、最小編成のスタジオ盤、豪華なスタジオ盤という3つの顔を、同じMFSL盤で並べて聴ける点が、この3枚の面白さです。
参考
- The Beatles Bible|Live Peace In Toronto 1969(アルバム発売日の記事)
- The Beatles Bible|Live Peace In Toronto 1969
- The Beatles Bible|John Lennon/Plastic Ono Band
- The Beatles Bible|Imagine
- The Beatles Bible|Imagine(スタジオでの制作)
- johnlennon.com|Imagine
- Rolling Stone|Live Peace In Toronto, 1969(当時のレビュー)
Googleの検索結果で、当サイトの記事を見つけやすくなります。




