眠れない人に聴いて欲しい|George Harrison『Somewhere in England』レビュー

George Harrisonの『Somewhere in England』(1981年)を、紙ジャケット仕様のSHM-CD盤で手に入れた。購入日は2026年10月21日。

実は、このアルバムを最初に聴いたのは30年以上前、レコードでのことだ。ジョン・レノンへの追悼曲「All Those Years Ago」が入っていると知り、期待値は最大まで振り切れていた。ところが針を落としてみると、私の耳には駄作としか響かなかった。あの落差だけが、長い間ずっと記憶に残っていた。

今回、再発盤をあらためて聴き直してみた。結論から言えば、評価は大きくは変わっていない。ただ、このアルバムには別の使い道があることに気づいた。

「All Those Years Ago」は名曲だったのか

この曲は全米で大ヒットした。ただ、正確に書いておく。Billboard Hot 100での最高位は2位で、3週にわたって2位に居座ったものの、1位には届いていない(当時の1位はKim Carnesの「Bette Davis Eyes」)。一方、アダルト・コンテンポラリー・チャートでは1位に達している。

ヒットしたことと、名曲であることは別の話だ。元ビートルズの3人(George、Paul McCartney、Ringo Starr)が揃った話題性と、ジョンの死の直後という時期が、この曲を押し上げた面は大きいと思う。曲そのものを冷静に聴けば、30年以上前に感じた物足りなさは、今も私の中に残っている。

そもそも難産だったアルバム

このアルバムは、リリースまでの道のりがかなり険しかった。Georgeが1980年に最初に提出した内容を、配給元のWarner Bros.が突き返したのだ。理由は「落ち着きすぎていて、商業的に弱い」というものだった。4曲が外され、アルバムのジャケット案も却下された。Beatles Bibleは、元ビートルの作品がレコード会社に拒否された最初のアルバムだと記している。

Georgeはこれを受けて内容を作り直し、新曲を加えた。その中の「Blood From A Clone」は、まさに自分の作品を突き返した経営陣への皮肉を込めた曲だとされている。「All Those Years Ago」も、この作り直しの過程で加わった曲だ。

ここでひとつ、私の記憶を訂正しておく。私は長い間、プロデューサーかレコード会社から曲の作り直しを指示されたと思い込んでいた。実際に突き返したのはレコード会社であり、プロデュースはGeorge自身とRay Cooperが担当している。

ともあれ、音楽業界には「元ビートルズ」という実績が通用しない冷徹な面がある。このアルバムの成り立ちは、それをよく物語っている。

同じ頃のPaul McCartneyも

近い時期のPaulにも、似た話がある。『Tug of War』(1982年)と『Pipes of Peace』(1983年)は、もともと同じセッションから生まれた曲群だ。Paul本人は1983年のBBCのインタビューで、当初は二枚組で出すつもりだったと語っている。「レコード会社は二枚組を嫌がる、慌てるんだ」という趣旨の発言で、結局は2枚に分けて別々に出すことになった。

つまり「2枚同時発売を断られた」という私の記憶は、正確には「二枚組構想が、レコード会社の事情で2枚の別々のアルバムに分割された」が実際のところのようだ。業界が低迷していたから、という理由までは、今回の調査では確認できなかった。

どの時代でも、元ビートルズのメンバーですら、レコード会社の判断には逆らいにくい。そんな空気が、この時期の彼らの作品には色濃く映っている。

アルバム全体で引き込む作家ではない

あくまで私個人の見立てだが、Georgeは、アルバム一枚を通して聴き手を引き込み、虜にしてしまうタイプの音楽家ではないと思う。たとえばPeter Gabrielには、シングルヒットの有無とは関係なく、アルバム全体の構築力で聴き手を掴む強さがある。Georgeの『Somewhere in England』には、そうした求心力は感じにくい。

パッとしない曲が並んでいる。この点は、再発盤で聴いても変わらなかった。

それでも、今の私にはちょうどいい

意外だったのは、聴き終えたあとの感触だった。刺激がない。胸が締めつけられるような悲しい曲もない。全体が穏やかに流れていく。

就寝前に心を整えて眠りにつくための音楽として聴くと、これがじつにちょうどいい。30年以上前の私が求めていたのは、ジョンを悼む劇的な一枚だった。だから失望した。しかし今の私が求めているのは、一日を静かに終わらせる音楽だ。聴く側が変わると、同じアルバムの価値も変わるのだと思った。

CDについて

今回聴いたのは、紙ジャケット仕様のSHM-CD盤の再発盤。2026年10月21日に購入した。

音は、今回のリマスターらしく解像度が高く、はっきりとしたHIFISOUNDだ。綺麗すぎてどうかと思うくらいである。個人的には、飾り気のない地味な音も好きだが、時にはこうしたHIFISOUNDもいい。曲が地味な分、音の綺麗さが際立って聴こえる面もあり、就寝前にそっと流しておくには、この澄んだ音がかえって心地よい。

1981年当時のレコードで聴いた人間が、今あらためて手元に置いておく盤としては、それなりに納得のいく一枚になっている。

まとめ

  • 「All Those Years Ago」は全米Hot 100で最高2位。ヒットと名曲は別物だった
  • アルバムはWarner Bros.に一度突き返され、作り直しを経て世に出た難産の一枚
  • アルバム全体で引き込む力は強くないが、刺激のなさが就寝前には向いている

期待値を上げすぎて失望した過去の自分に、今なら少し違う聴き方を教えてあげられる。そんな一枚だ。

参考・出典


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