ビートルズ「Let It Be… Naked」レビュー|2009年リマスターのオリジナル盤と聴き比べて分かったこと

2003年盤の『Let It Be… Naked』を買い、手元にある2009年リマスターのオリジナル『Let It Be』(24bit/44.1kHz、英国オリジナルのステレオ盤をまとめたUSB盤)と聴き比べた。人気作とは言えないアルバムだが、聴く価値のある曲がある。

2003年盤にはコピーガード(CCCP)盤があるので、購入するときには注意が必要。

結論

  • 「The Long And Winding Road」のオーケストラなしの録音だけでも、この盤を聴く価値がある。
  • ミックスは、ボーカルと各楽器が前に出る荒削りな仕上がり。中低域の厚みはNaked盤のほうがある。格調の高さを求めるなら、オリジナル盤が上。
  • 「音圧が高い」という評判は、2009リマスター盤と比べて平均音量が0.6〜1.1dB高い、という大きさだった。ピークは両盤とも−0.1dBFS前後で差がない。

Naked盤とは何か

『Let It Be… Naked』は2003年11月に発売された。ポール・マッカートニーが、フィル・スペクターのオーケストラと合唱のオーバーダビングを外した形で作り直したいと考えて始まった企画で、2002年2月にアビー・ロード・スタジオのアラン・ラウズ、ポール・ヒックス、ガイ・マッシーがチームを組んだ。約30リールのテープをPro Toolsに取り込み、各トラックをクリーンアップしてからリミックスしている。参照したのはスペクター盤とグリン・ジョンズのミックスだ。

「素のまま」と呼ばれるが、単にオーケストラを外しただけの盤ではない。主な違いは次のとおり。

  • 曲順を組み替え、「Get Back」で始まり「Let It Be」で終わる構成にした。
  • 「Dig It」と「Maggie Mae」を外し、「Don’t Let Me Down」を加えた。
  • 「Don’t Let Me Down」と「I’ve Got a Feeling」は、屋上コンサートの2つの演奏を編集してつないでいる。
  • ミスや雑音のある箇所は、別テイクから差し替えている。

聴いた印象

私自身発売されていたのは知っていたが、オーケストラなしのものも過去に聴いていてあった方がいいという結論だった。しかし、YouTubeのおススメに出てきて聴いてみたら意外に良かったので購入した。本当に人の感覚というのは分からないものだ。

ミックスのバランス

ボーカルが特に荒く混ぜられている。曲に合わせてボーカルや各楽器がバランスよく鳴っているというより、ボーカルや各楽器に曲がついていっている印象だ。生々しさはあるが、まとまりを求める聴き方には向かない。

中低域と格調

中低域の厚みは、2003年リミックスのNaked盤のほうがある。2004年のStereophile誌も、Naked盤は旧来のCDと比べて低域の量感と楽器の分離が向上したと評価していて、聴感と一致する。一方で、格調の高さを求めるなら、オリジナルの『Let It Be』を選ぶ。

曲順

オープニングが「Get Back」で、エンディングが「Let It Be」。原点に返れという示唆から始まり、なすがままにで終わる、意味深な順番に聴こえる。

「The Long And Winding Road」

この盤でいちばん良かった曲。1969年1月31日の最終テイクを使い、オーケストラと合唱を外している。オリジナル盤にあったギターとエレクトリックピアノは加え直されている。シンプルだが心に沁みる。この曲のためだけに買う価値がある。

「Across the Universe」

1968年2月の録音を再ミックスしている。マラカス、キーボード、バッキングボーカル、オーケストラ、効果音は外され、テープディレイが加えられた。聴いていて気になったのは次の2点。

  • 終始、中域あたりにフェイザーかシタールを入れたようなうねる音が鳴っている。
  • フェードアウトにエコーがかかっている。

エコーは、資料にある「テープディレイの追加」と合致する。うねる音の正体は、確認できた資料からは分からなかった。

オーケストラなしの音源は、昔からあった

1988〜89年頃、ビートルズ・シネクラブから発売されたロスト・レノン・テープ(The Lost Lennon Tapes)で、オーケストラを除いた『Let It Be』の曲を聴いたことがある。2000年代にあらためてリミックスしなくても、元々あったのではないか、という疑問が残っていた。

調べると、半分は当たっていた。スペクターが手を入れる前に、エンジニアのグリン・ジョンズが1969年から70年にかけて、少なくとも4種類の「Get Back」ミックスを作っている。1969年9月にはラジオ局に流出して放送され、そこから海賊盤が生まれた。1980年代の時点で聴けたのは、ラジオや海賊盤経由のミックス1と2、1974年以降のミックス3だった。4つ目が聴けるようになったのは1999年だ。公式にも、スペクターの手が入らない「The Long And Winding Road」が1996年の『Anthology 3』に収録されている。

ただしNaked盤は、それらを出し直したものではない。マルチトラックから新しくリミックスし、複数の演奏を編集した別物だ。「オーケストラがない」という点は同じでも、中身は違う。

「音圧が高い」という評判

Naked盤は音圧が高いと言われる。しかし音源を解析すると、サンプルピークは2009リマスター盤が−0.17dBFS、Naked盤が−0.11dBFSで、どちらもフルスケール付近まで使っていた。ピークは瞬間的な最大値で、評判の根拠にならない。差があったのは平均の音量(音圧)で、2009リマスター盤と比べてNaked盤はRMSで0.76dB、ラウドネスで0.56LUFS高く、DR(DR Meter相当)は0.47dB小さい。数値は解析の章にまとめた。

解析:「I’ve Got a Feeling」を2009年リマスターと比べる

「I’ve Got a Feeling」の2音源を、数値で比べた。2009リマスター盤は24bit/44.1kHz、Naked盤は16bit/44.1kHz。長さは2009リマスター盤が3分37.6秒、Naked盤が3分30.8秒で、Naked盤が6.8秒短い。

項目2009リマスター盤Naked盤差(Naked−2009)
サンプルピーク(dBFS)−0.17−0.11+0.06
RMS(dBFS)−14.13−13.37+0.76
ラウドネス(LUFS)−10.95−10.38+0.56
0.4秒RMSの中央値(dBFS)−14.26−13.17+1.09
DR(DR Meter相当)8.988.51−0.47
クレストファクター(dB)13.9613.26−0.70
C2〜B2のエネルギー比(%)33.239.2+6.0
99.9%ロールオフ(Hz)10,46010,255−205
L/R相関0.6830.800+0.118
Side−Mid(dB)−7.20−9.49−2.30
基準音のずれ(セント、A440比)+4.8+10.8+6.0

音量

サンプルピークは両盤ともフルスケール付近で、差は0.06dBしかない。平均の音量はNaked盤のほうが大きい。RMSで0.76dB、ラウドネスで0.56LUFS、0.4秒RMSの中央値で1.09dB高い。DRはNaked盤が0.47dB小さい。「音圧が高い」という評判は、2009リマスター盤との比較では、平均音量が0.6〜1.1dB高いという大きさだった。

帯域バランス

全体の音量差を除いて、帯域ごとの形を比べた。Naked盤は、125Hzが+2.2dB、315Hzが+1.2dB、500Hzが+1.4dBと、中低域が厚い。C2〜B2(約64〜127Hz)のエネルギー比も、33.2%から39.2%に増えている。一方、5k〜10kHzは0.8〜1.9dB低く、8kHzが最大の−1.9dBだった。99.9%ロールオフは10,460Hzと10,255Hzで、高域の伸びの差は205Hzだ。

20Hzと25Hzの帯域は、Naked盤が12〜14dB高い。この帯域のレベルは、Naked盤でも200Hz付近より18〜24dB低く、聴感にどれだけ影響するかは測れていない。

ステレオ

Naked盤は中央寄りだ。L/R相関は0.683から0.800に上がり、Side−Midは−7.2dBから−9.5dBへ2.3dB下がった。帯域別では、250Hz未満が4.2dB、250〜4,000Hzが1.8dB、4,000Hz以上が0.6dB、それぞれSideが小さい。ボーカルが前に出て聴こえる印象と矛盾しないが、ボーカルだけを分離して測ってはいない。

基準音

基準音(A440からのずれ)は、2009リマスター盤が+4.8セント、Naked盤が+10.8セントと推定された。Naked盤が6.0セント高い。

和音の厚み

拍ごとに同時に鳴っている音名の数は、平均で2.00と1.96。最も多い音名はどちらもA(29.9%と30.4%)だった。和音の使い方の大づかみな傾向は、2音源で近い。

測れなかったこと

  • 位置合わせと差分: 波形の相関が低すぎて位置合わせに失敗し、差分(null depth)は出せなかった。Naked盤は屋上コンサートの2つの演奏を編集してつないだ別ミックスで、長さも6.8秒違う。失敗の原因が演奏の違いなのかミックスの違いなのかは、この解析では切り分けられていない。
  • ノイズフロア: 曲頭の0.25秒は、2009リマスター盤が−83.4dBFSの無音に近く、Naked盤が−35.5dBFSで音が入っている。Naked盤は曲頭から音が入っているため、50ms単位の下位1%の値(−82.9dBFSと−33.0dBFS)の差は、ノイズフロアの差ではない。比較できなかった。
  • テンポ: 両盤とも161.5BPMと推定されたが、推定値は検出の刻みに丸められるため、テンポの差は測れていない。
  • ビット深度: 2009リマスター盤が24bit、Naked盤が16bitなので、ピークとノイズフロアの比較には量子化の影響が入る。
  • DR: 簡易計算で、TT DR Meterの表示値とは小数で食い違うことがある。
  • 聴感: ボーカルの荒さなどの印象は、数値で測れていない。「Across the Universe」のうねる音も対象外で、解析したのは「I’ve Got a Feeling」だけだ。

人気がない作品なのか

売れなかったわけではない。発売後はよく売れ、チリとメキシコではチャート1位になった。一方で、ファンの評価は割れた。30年越しのこだわりでリミックスするより、映画のリリースやリマスター盤に注力すべきだという声が強かった。人気がないというより、評価が割れた作品と書くほうが正確だ。

まとめ

  • 中低域の厚みはNaked盤が上。格調の高さはオリジナル盤(2009年リマスター)が上。
  • Naked盤は、ボーカルと楽器が前に出る荒い音。
  • 「The Long And Winding Road」のオーケストラなしの録音は、この盤で聴ける。

参考


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