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- 2024年4月11日
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Paul McCartney『Band on the Run』徹底レビュー|名盤の魅力と音質評価
1973年リリースのポール・マッカートニー&ウイング……

2003年盤の『Let It Be… Naked』を買い、手元にある2009年リマスターのオリジナル『Let It Be』(24bit/44.1kHz、英国オリジナルのステレオ盤をまとめたUSB盤)と聴き比べた。人気作とは言えないアルバムだが、聴く価値のある曲がある。
2003年盤にはコピーガード(CCCP)盤があるので、購入するときには注意が必要。

『Let It Be… Naked』は2003年11月に発売された。ポール・マッカートニーが、フィル・スペクターのオーケストラと合唱のオーバーダビングを外した形で作り直したいと考えて始まった企画で、2002年2月にアビー・ロード・スタジオのアラン・ラウズ、ポール・ヒックス、ガイ・マッシーがチームを組んだ。約30リールのテープをPro Toolsに取り込み、各トラックをクリーンアップしてからリミックスしている。参照したのはスペクター盤とグリン・ジョンズのミックスだ。
「素のまま」と呼ばれるが、単にオーケストラを外しただけの盤ではない。主な違いは次のとおり。
私自身発売されていたのは知っていたが、オーケストラなしのものも過去に聴いていてあった方がいいという結論だった。しかし、YouTubeのおススメに出てきて聴いてみたら意外に良かったので購入した。本当に人の感覚というのは分からないものだ。
ボーカルが特に荒く混ぜられている。曲に合わせてボーカルや各楽器がバランスよく鳴っているというより、ボーカルや各楽器に曲がついていっている印象だ。生々しさはあるが、まとまりを求める聴き方には向かない。
中低域の厚みは、2003年リミックスのNaked盤のほうがある。2004年のStereophile誌も、Naked盤は旧来のCDと比べて低域の量感と楽器の分離が向上したと評価していて、聴感と一致する。一方で、格調の高さを求めるなら、オリジナルの『Let It Be』を選ぶ。
オープニングが「Get Back」で、エンディングが「Let It Be」。原点に返れという示唆から始まり、なすがままにで終わる、意味深な順番に聴こえる。
この盤でいちばん良かった曲。1969年1月31日の最終テイクを使い、オーケストラと合唱を外している。オリジナル盤にあったギターとエレクトリックピアノは加え直されている。シンプルだが心に沁みる。この曲のためだけに買う価値がある。
1968年2月の録音を再ミックスしている。マラカス、キーボード、バッキングボーカル、オーケストラ、効果音は外され、テープディレイが加えられた。聴いていて気になったのは次の2点。
エコーは、資料にある「テープディレイの追加」と合致する。うねる音の正体は、確認できた資料からは分からなかった。
1988〜89年頃、ビートルズ・シネクラブから発売されたロスト・レノン・テープ(The Lost Lennon Tapes)で、オーケストラを除いた『Let It Be』の曲を聴いたことがある。2000年代にあらためてリミックスしなくても、元々あったのではないか、という疑問が残っていた。
調べると、半分は当たっていた。スペクターが手を入れる前に、エンジニアのグリン・ジョンズが1969年から70年にかけて、少なくとも4種類の「Get Back」ミックスを作っている。1969年9月にはラジオ局に流出して放送され、そこから海賊盤が生まれた。1980年代の時点で聴けたのは、ラジオや海賊盤経由のミックス1と2、1974年以降のミックス3だった。4つ目が聴けるようになったのは1999年だ。公式にも、スペクターの手が入らない「The Long And Winding Road」が1996年の『Anthology 3』に収録されている。
ただしNaked盤は、それらを出し直したものではない。マルチトラックから新しくリミックスし、複数の演奏を編集した別物だ。「オーケストラがない」という点は同じでも、中身は違う。
Naked盤は音圧が高いと言われる。しかし音源を解析すると、サンプルピークは2009リマスター盤が−0.17dBFS、Naked盤が−0.11dBFSで、どちらもフルスケール付近まで使っていた。ピークは瞬間的な最大値で、評判の根拠にならない。差があったのは平均の音量(音圧)で、2009リマスター盤と比べてNaked盤はRMSで0.76dB、ラウドネスで0.56LUFS高く、DR(DR Meter相当)は0.47dB小さい。数値は解析の章にまとめた。
「I’ve Got a Feeling」の2音源を、数値で比べた。2009リマスター盤は24bit/44.1kHz、Naked盤は16bit/44.1kHz。長さは2009リマスター盤が3分37.6秒、Naked盤が3分30.8秒で、Naked盤が6.8秒短い。






| 項目 | 2009リマスター盤 | Naked盤 | 差(Naked−2009) |
|---|---|---|---|
| サンプルピーク(dBFS) | −0.17 | −0.11 | +0.06 |
| RMS(dBFS) | −14.13 | −13.37 | +0.76 |
| ラウドネス(LUFS) | −10.95 | −10.38 | +0.56 |
| 0.4秒RMSの中央値(dBFS) | −14.26 | −13.17 | +1.09 |
| DR(DR Meter相当) | 8.98 | 8.51 | −0.47 |
| クレストファクター(dB) | 13.96 | 13.26 | −0.70 |
| C2〜B2のエネルギー比(%) | 33.2 | 39.2 | +6.0 |
| 99.9%ロールオフ(Hz) | 10,460 | 10,255 | −205 |
| L/R相関 | 0.683 | 0.800 | +0.118 |
| Side−Mid(dB) | −7.20 | −9.49 | −2.30 |
| 基準音のずれ(セント、A440比) | +4.8 | +10.8 | +6.0 |
サンプルピークは両盤ともフルスケール付近で、差は0.06dBしかない。平均の音量はNaked盤のほうが大きい。RMSで0.76dB、ラウドネスで0.56LUFS、0.4秒RMSの中央値で1.09dB高い。DRはNaked盤が0.47dB小さい。「音圧が高い」という評判は、2009リマスター盤との比較では、平均音量が0.6〜1.1dB高いという大きさだった。
全体の音量差を除いて、帯域ごとの形を比べた。Naked盤は、125Hzが+2.2dB、315Hzが+1.2dB、500Hzが+1.4dBと、中低域が厚い。C2〜B2(約64〜127Hz)のエネルギー比も、33.2%から39.2%に増えている。一方、5k〜10kHzは0.8〜1.9dB低く、8kHzが最大の−1.9dBだった。99.9%ロールオフは10,460Hzと10,255Hzで、高域の伸びの差は205Hzだ。
20Hzと25Hzの帯域は、Naked盤が12〜14dB高い。この帯域のレベルは、Naked盤でも200Hz付近より18〜24dB低く、聴感にどれだけ影響するかは測れていない。
Naked盤は中央寄りだ。L/R相関は0.683から0.800に上がり、Side−Midは−7.2dBから−9.5dBへ2.3dB下がった。帯域別では、250Hz未満が4.2dB、250〜4,000Hzが1.8dB、4,000Hz以上が0.6dB、それぞれSideが小さい。ボーカルが前に出て聴こえる印象と矛盾しないが、ボーカルだけを分離して測ってはいない。
基準音(A440からのずれ)は、2009リマスター盤が+4.8セント、Naked盤が+10.8セントと推定された。Naked盤が6.0セント高い。
拍ごとに同時に鳴っている音名の数は、平均で2.00と1.96。最も多い音名はどちらもA(29.9%と30.4%)だった。和音の使い方の大づかみな傾向は、2音源で近い。
売れなかったわけではない。発売後はよく売れ、チリとメキシコではチャート1位になった。一方で、ファンの評価は割れた。30年越しのこだわりでリミックスするより、映画のリリースやリマスター盤に注力すべきだという声が強かった。人気がないというより、評価が割れた作品と書くほうが正確だ。
参考