- 音源解析
- 2026年10月2日
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ビル・エヴァンス「One for Helen」をスペクトル・ピッチ解析|Town Hall(1966)とMontreux(1968)の違い
耳で感じた違いを、数字で確かめる ビル・エヴァンスの……

最初聴いた時、なんて音質の悪い録音なんだろうと失望したことを今でも覚えています。しかしそれは私の受け止め方で、アーティストの制作の意図とは違っていました。
ブルース・スプリングスティーン(Bruce Springsteen)のアルバムおよび楽曲『明日なき暴走(Born to Run)』が、フィル・スペクター(Phil Spector)の「ウォール・オブ・サウンド(Wall of Sound)」を狙って制作されたとする根拠は、本人の発言や制作関係者の証言、および音楽史的なドキュメンタリー資料に明確に残されています。
主な根拠は以下の通りです。
1. ブルース・スプリングスティーン本人の言及
2. プロデューサー/エンジニアの証言とスタジオ作業
3. 公式ドキュメンタリー(2005年『Wings for Wheels』)
このように、アーティスト自身のコンセプト・目指したビジョン、実際の録音手法(多重録音・エコーの使用)、そして関係者の裏付け証言が揃っていることが明確な根拠となっています。
耳で感じた違いを、数字で確かめる
『明日なき暴走(Born to Run)』は、もともと音質に恵まれた作品ではありません。CDによっては、音が籠り、分離感も解像度も足りません。
私が持っているCDは、この1枚だけです。2005年の紙ジャケシリーズ(MHCP 723)で、オリジナル・マスター・テープ音源を使った盤です。このCDと、ボブ・ラドウィックによるリマスターのハイレゾ盤を、タイトル曲の音源データで解析しました。
結論は、買うならハイレゾ盤です。
| CD盤 | ハイレゾ盤 | |
|---|---|---|
| 使った盤 | 紙ジャケット仕様(MHCP 723)、2012年1月23日再プレス盤 | ボブ・ラドウィックによるリマスター |
| 音源 | オリジナル・マスター・テープ音源 | リマスター |
| 取り込み | 16bit / 44.1kHz FLAC | 24bit / 96kHz FLAC |
| 解析した曲 | 5曲目「明日なき暴走」 | 5曲目「明日なき暴走」 |
このCDの帯には、オリジナル・マスター・テープ音源と明記されています。ソニーの紙ジャケシリーズの紹介ページにも、音源はブルース本人の意向でオリジナル・マスター・テープを使っている、という注記があります。
CDプレス用にダビングを重ねた音源ではないので、他のCDより音が良いと言われている盤です。私はカセットからカセットへのダビングで、音が籠った経験があります。だからこの説明は、実感として納得できます。

示
| 項目 | CD盤 | ハイレゾ盤 |
|---|---|---|
| ピーク | 0.00 dBFS | 0.00 dBFS |
| 平均音量(LUFS) | −9.8 | −8.2 |
| DR(概算) | 11.2 dB | 10.1 dB |
| 0.4秒RMSのばらつき(P90−P10) | 3.4 dB | 3.2 dB |
| 左右の相関(1に近いほど中央寄り) | 0.83 | 0.82 |
| 2〜8kHz帯のエネルギー比 | 11.58% | 16.91% |
| 8〜16kHz帯のエネルギー比 | 0.30% | 0.99% |
| 99.9%ロールオフ周波数 | 約9.4kHz | 約11.3kHz |
| 基準音からのずれ(推定) | +6セント | +9セント |
| テンポ(推定、冒頭5〜60秒) | 約147.0 BPM | 約147.2 BPM |
| クロマのエントロピー(最大3.58bit) | 3.44bit | 3.44bit |
| 1拍あたりのピッチクラス数(閾値0.5) | 約2.4 | 約2.4 |
同じ録音の、別のマスターです。 音名分布の相関は、移調なしで最大の0.977でした。エントロピーも、1拍あたりのピッチクラス数も同じです。音楽の中身は同じで、違いはマスタリングにあります。
ハイレゾ盤の方が、音が大きい。 平均音量は1.6LU違います。DRメーター方式で測ると、CD盤が8.2、ハイレゾ盤が7.0です。音圧を上げた分だけ、ダイナミクスは小さくなっています。ただし、CD盤にはクリップがあります。フルスケール付近の連続は、CD盤が最大19サンプルで、3サンプル以上続く箇所が52か所。ハイレゾ盤は最大2サンプルで、3サンプル以上続く箇所はありません。
高域は、ハイレゾ盤が圧倒的に多い。 2〜8kHz帯は約1.5倍、8〜16kHz帯は約3.3倍です。スペクトル重心は、CD盤の787Hzに対して、ハイレゾ盤は1,073Hz。4kHz以上と1〜4kHzの比は、CD盤が−8.7dB、ハイレゾ盤が−4.3dBです。オリジナル・マスター・テープ音源のCDでも、高域はこれだけ少ないのです。
高域のステレオが、CD盤では崩れている。 全体の左右の相関はほぼ同じですが、帯域別に見ると差が出ます。
示

| 帯域 | CD盤 | ハイレゾ盤 |
|---|---|---|
| 40〜200Hz | 0.93 | 0.91 |
| 200Hz〜1kHz | 0.83 | 0.78 |
| 1〜4kHz | 0.73 | 0.72 |
| 4〜10kHz | 0.42 | 0.84 |
| 10〜20kHz | −0.28 | 0.76 |
4kHz以上で、CD盤だけ左右の関係が崩れ、10kHz以上は逆位相気味です。ハイレゾ盤は、高域も中央に安定しています。私はこれを、分離感の違いの根拠として読みます。
音の立ち上がりの鋭さは、ハイレゾ盤が少し上。 2〜12kHz帯を50ミリ秒ごとに区切って、ピークとRMSの比(クレスト)を測りました。中央値は、CD盤が11.2dB、ハイレゾ盤が11.6dBで、ハイレゾ盤が約0.4dB高い。測定のばらつきの外にある差です。200Hz〜20kHzの全帯域でも、約0.4dBの差が出ました。一方、4〜10kHz帯だけで見ると、差はありません。
低域も、ハイレゾ盤の方が厚い。 60〜200Hzは+1.6dB、20〜60Hzは+2.7dBです。オクターブ別でも、C2〜B2はハイレゾ盤が約4ポイント多くなっています。
ハイレゾ盤の方が、約0.14%速い。 2音源の時間ずれは、曲の位置に比例して広がります。3秒地点で0.82秒、240秒地点で1.15秒です。音程に直すと約2.4セントで、基準音の差(3セント)と同じ程度の小さな差です。別のテープ転送から作られたマスターだと分かります。
私の経験では、『明日なき暴走』のCDの多くは、音が籠っています。分離感も解像度も足りません。その中で、オリジナル・マスター・テープ音源のこのCDは、音が良いと言われています。
その最良のCDを測っても、ハイレゾ盤より高域は少なく、高域のステレオは崩れていました。最良のCDがこの状態なら、ダビングを重ねたCDは、さらに高域を失っています。カセットのダビングで私が経験したのと、同じ方向の劣化です。