- Piano Ballad
- 2026年8月10日
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悲しみなきビル・エヴァンス ― 『Portrait in Jazz』が生まれた1959年という転換点
ビル・エヴァンスと言えば『Portrait in Jazz』……

前回の記事で、『Waltz for Debby』のAnalogue Productions盤(CD層)とXRCDを聴き比べました。違いが出たのは、ベースの質感です。私の評価は、Analogue Productions盤が5、XRCDが3でした。
その違いが、数字にも出るのか。「My Foolish Heart」の音源データで確かめます。
耳で感じた違いを、数字で確かめる
結論は、同じオリジナル・マスターテープからの、別々のリマスターです。Analogue Productions盤は、音が約3dB大きく、65〜123Hzの低音の比率が7ポイント高い。XRCDは、262Hz以上の中高域の比率が高い。そして、2つの音は絶対位相が逆です。
| Analogue Productions盤 | XRCD | |
|---|---|---|
| 使った盤 | ハイブリッドSACD(CD層のみ) | XRCD |
| 音源 | オリジナル・マスターテープ | オリジナル・マスターテープ |
| リマスター | ダグ・サックス(The Mastering Lab) | アラン・ヨシダ |
| 取り込み | 16bit / 44.1kHz FLAC | 16bit / 44.1kHz WAV |
| 長さ | 299.5秒 | 298.9秒 |
| 解析した曲 | 「My Foolish Heart」 | 「My Foolish Heart」 |
2枚とも、オリジナル・マスターテープからのリマスターです。違うのは、リマスターを担当した人と、その手順です。
SACD層は、再生できる装置がありません。解析したのは、Analogue Productions盤のCD層だけです。

| 項目 | Analogue Productions盤 | XRCD |
|---|---|---|
| ピーク | −0.00 dBFS | −1.73 dBFS |
| 平均音量(LUFS) | −18.3 | −21.0 |
| 0.4秒RMSの中央値 | −23.1 dBFS | −26.3 dBFS |
| DR(DR Meter換算) | 13.4 dB | 13.3 dB |
| 0.4秒RMSのばらつき(P95−P10) | 15.8 dB | 16.3 dB |
| 左右の相関 | 0.101 | 0.098 |
| 99.9%ロールオフ周波数 | 約15.0kHz | 約14.8kHz |
| 基準音からのずれ(推定) | +16.4セント | +14.6セント |
| 1拍あたりのピッチクラス数(閾値0.5) | 約2.3 | 約2.4 |
同じテープの、別々のリマスターです。 スペクトログラムは、2つとも、音の出る場所と強弱の流れが一致します。音名の分布も重なり、12音名の分布の相関は、移調なしで最大の0.997です。差が最大なのはE(Analogue Productions盤9.45%、XRCD8.89%、差0.55ポイント)とB(13.81%と14.36%、差0.54ポイント)です。音楽の中身は同じで、違いはマスタリングにあります。
Analogue Productions盤の方が、音が3dB前後大きい。 平均音量は2.7LU、0.4秒RMSの中央値は3.2dB違います。ピークも、Analogue Productions盤は0dBFSまで使い、XRCDは−1.73dBです。それでも、DRは13.4と13.3で、Analogue Productions盤が0.15dB大きいだけです。音量を上げても、ダイナミクスは削られていません。フルスケール付近(0.9999以上)のサンプルは、どちらも0です。
低音は、Analogue Productions盤が厚い。 オクターブごとのエネルギーの比率です。
| オクターブ(音域) | Analogue Productions盤 | XRCD | 差(XRCD−AP) |
|---|---|---|---|
| C1〜B1(約33〜62Hz) | 3.2% | 3.0% | −0.2 |
| C2〜B2(約65〜123Hz) | 28.5% | 21.5% | −7.0 |
| C3〜B3(約131〜247Hz) | 23.4% | 20.8% | −2.7 |
| C4〜B4(約262〜494Hz) | 27.3% | 31.9% | +4.6 |
| C5〜B5(約523〜988Hz) | 13.9% | 18.3% | +4.4 |
| C6〜B6(約1.05〜1.98kHz) | 3.0% | 3.9% | +0.8 |
| C7〜B7(約2.09〜3.95kHz) | 0.6% | 0.6% | −0.0 |
C2〜B2は、Analogue Productions盤が7.0ポイント多い。C4〜B4とC5〜B5は、XRCDが4.6ポイントと4.4ポイント多い。これは全体に対する比率なので、音量の差とは別の、音のバランスの差です。比率は、C1(約32Hz)からB7(約3.95kHz)までの7オクターブの中で計算しています。
1/3オクターブごとの平均スペクトルでも、同じ形です。音量の差(100Hz〜10kHzの中央値で、XRCDが2.7dB低い)を除いて、形だけを比べると、次のようになります。
| 帯域 | XRCD−Analogue Productions盤(形のみ) |
|---|---|
| 50〜200Hz | 平均−1.2dB(−0.5〜−1.6dB) |
| 250〜1.3kHz | 平均+0.7dB(+0.2〜+1.1dB) |
| 4〜13kHz | 平均−0.9dB(−0.6〜−1.2dB) |
XRCDは、低音が約1.2dB少なく、中域が約0.7dB多く、高域が約0.9dB少ない。16kHz以上のエネルギーも、全体に対してXRCDが0.6dB低くなっています。
ステレオの広がりは、ほぼ同じ。 左右の相関は0.101と0.098、中央成分に対する左右差成分のレベルは−0.88dBと−0.82dBです。帯域別でも、差は0.2dB以内に収まります。
| 帯域(左右差成分−中央成分) | Analogue Productions盤 | XRCD |
|---|---|---|
| 250Hz未満 | −1.23dB | −1.41dB |
| 250Hz〜4kHz | −0.54dB | −0.43dB |
| 4kHz以上 | +0.04dB | +0.17dB |
基準音は、どちらも+15セント前後で、差は小さい。 Analogue Productions盤が+16.4セント、XRCDが+14.6セントで、差は1.8セントです。速度差から求めた音程差は1.17セント(Analogue Productions盤が高い)で、向きが一致します。どちらも、A=440Hzより約15セント高い、約443.5Hzです。
2つの音は、絶対位相が逆です。 位置合わせの相関が、XRCDを反転させたときだけ正になります。47区間の相関の中央値は0.966、最小でも0.73です。どちらが正相かは、この解析では決められません。
2つの時間のずれは、一定ではない。 開始位置は、Analogue Productions盤の演奏がXRCDより約175ms遅れています。ただし、このずれは曲の中で171.9msから179.8msの間を揺れ、直線から最大218サンプル(4.9ms)外れます。同じテープでも、別々にリマスターした2枚は、時間軸が完全には一致しません。
前回の記事で、ベースの質感はAnalogue Productions盤が5、XRCDが3と書きました。この印象は、数字と同じ向きです。65〜123Hzの比率は、Analogue Productions盤が7ポイント高く、50〜200Hzの形も、XRCDが1.2dB少ない。音量も、Analogue Productions盤が3dB前後大きい。
ピアノの音と空気感は、どちらも5と書きました。ステレオの広がりが同じで、音名の分布の相関が0.997であることと、矛盾しません。違いは、低音から中域にかけての、音のバランスにあります。