【音質比較】ビル・エヴァンス『Waltz For Debby』Analogue Productions盤(CD層)は、XRCDと何が違うのか

以前、『Waltz For Debby』はSHM-CD、UHQCD、XRCDを比較し、音質的にはXRCDが最強と書きました。ところが、このアルバムで一番音がいいと言われるディスクがもう1枚あります。Analogue Productions(以下AP)のハイブリッドSACDです。今日それが手元に届いたので、XRCDと聴き比べました。

なお、私の環境ではSACD層を再生できないため、この記事はすべてCD層での比較です。

Analogue Productionsとは

APの母体は、チャド・カッセム氏が1986年にカンザス州サリナで始めた、オーディオファイル向けの通信販売会社Acoustic Soundsです。APからの最初のリイシューは1992年のヴァージル・トムソン『The Plow That Broke The Plains』で、その後、マスターテープをライセンスして、リマスターから発売までを行う形が定着しました。

APの特徴は次の3つです。

  • リマスターは、オリジナルのアナログ・マスターテープだけで行う。レーベル名の由来もここにある
  • 2011年に、自社のレコードプレス工場Quality Record Pressingを設立した
  • LPだけでなく、SACDやオープンリールテープにも展開してきた

現在の活動

2026年は母体であるAcoustic Soundsの設立40周年で、ワーナー系Rhinoのカタログから毎月2タイトルを再発する記念シリーズが進行中です。『Waltz For Debby』自体も、2024年にケヴィン・グレイのマスタリングによる5,000枚限定の45回転2LP(UHQR)が出ています。一方、本盤のようなSACDは廃盤で、現在の主力はLPとテープです。

このSACDのリマスターの特徴

Discogsのクレジットによると、2002年発売のハイブリッドSACDで、マスタリングエンジニアはドク・サックです。録音は真空管機器のみで行われ、マスターテープからThe Mastering Labの全真空管エレクトロニクスを最終のデジタル変換まで通して仕上げられました。

  • SACD層: EMM Labsの第3世代アナログ→DSDコンバーターで転送
  • CD層: 改造したマッセンバーグ製A/Dコンバーターを介して、Sony PCM-1630に直接転送

CD層はSACD層の流用ではなく、別工程で作られています。アナログ段は最後まで真空管で通しているのが特徴です。

このアルバムの評価

1961年6月25日、ニューヨークの名門ジャズクラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」でのライヴ録音です。スコット・ラファロが参加した最後のアルバムで、ラファロはこの10日後に亡くなっています。

音質の評価は分かれます。ある評者は、1992年のAP版(ドク・サック)を、温かさと細部の両面で一番のお気に入りとしています。LPにはケヴィン・グレイがマスタリングしたCraft Recordings盤が最良とする声もありますが、Craft盤はCDやSACDでは出ていません。ここでは、ディスクで聴ける盤に絞って比較します。

XRCDとAP盤(CD層)を聴き比べました

どんな音なんだろうと期待感しかありませんでした。とにかく音が太く生々しい。DCC Compact Classicsも音質が太く感じられたが、Analogue Productions程ではなかったです。両社とも真空管の機材を利用していた点で共通していて、この部分が音質に影響を与えていると考えます。

リマスターの解釈は、XRCDが曲全体の雰囲気を大切にしたものであるならば、このSACDは楽器にフォーカスしたリマスターである点が大きく異なると感じました。

XRCD:氷のように透き通った、孤独な世界

音が細く、解像度が高い盤です。しかし耳に刺さることはありません。透き通った氷のような音質で、ピアノを主役に、ベースとドラムがその周囲に位置します。

聴いていると、すべてから隔離された世界に、ひとりで孤独にいるような感覚になります。もう明日は来ないような気分になる、と言ってもいいかもしれません。

AP盤(CD層):活力に満ちた、明日のある音

ピアノだけでなく、ラファロのベースが太く、唸るような躍動感を持っています。ドラムは非常に生々しく、ピアノ、ベース、ドラムの3つのパートが喧嘩することなく競演しています。

全体的にエネルギーに満ちていて、音圧も若干高めです。この盤は、最初から「また明日が来る」という活力をもたらすリマスターだと感じました。

評価まとめ(5点満点)

項目XRCDAP盤(CD層)
ベースの質感
ピアノの質感
空気感
エッジ・透明感

ピアノ、空気感、エッジ・透明感は、質感の方向こそ違うものの、どちらも満点でした。差がついたのはベースです。AP盤はラファロのベースが太く躍動するのに対し、XRCDは細く繊細な描写になります。

総評

前回、私はXRCDを「音質的に最強」と書きました。その評価は変わっていません。ピアノの質感も、空気感も、エッジの立った透明感も、XRCDはAP盤と並んで満点です。

ただ、ベースの質感が3対5と大きく違うため、このアルバムの主役の一人であるラファロの演奏を余すところなく聴きたいなら、AP盤(CD層)の方が満足度は高いと感じました。

つまり、この2枚は優劣というより、聴きたい世界の違いです。

  • 孤独に浸り、ピアノの旋律に集中したいとき → XRCD
  • トリオ3人のエネルギーと躍動を感じたいとき → AP盤

どちらか1枚と言われれば、私は今回、ベースの表現力も含めた総合点でAP盤を選びます。ただしXRCDも手放せません。

キャッチコピー

『氷の孤独か、明日への活力か』

本記事はCD層のみでの試聴です。SACD層については聴いていません。


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